さわりたい

ニートの日記と詩

目を醒ませ

目を醒ませと声がする

 

 

 

 

月が呼んでいる

僕がどうしたのと声をかけると月は『そろそろあなたにかかっていた呪いが…』と、僕に言う。あぁ、そうか僕は確かにあの頃呪いを授かっていた。

 

 

 

それはそれは変に優しい魔女で僕はなんだかその魔女が悪い人に見えなかったのを覚えているんだ。夜の中でしか生きられない悲しい魔女が僕の下へやってきてこう言った
『お前は生きたいかい』
僕はこう言ったんだ
『いいや、死にたい』
そうすると魔女は悲しそうに笑って
『じゃあ花は好きか?』
頷くと、魔女は微笑んで
『お前に呪いをあげよう、お前も私と同じで夜から抜け出せない悲しい永遠の子供だ、だから呪いをあげよう。お前が夜から抜け出せる呪いを、そして太陽の光を浴びれる呪いを。ただし太陽の光を浴びるにつれお前の体からは無数の花が生えるだろう。そうしてそのままお前は死ぬ』
確かに明日への希望なんて無い、けれどもこの魔女はなんてお節介なのだろうかと思った、それだけ言うと魔女は涙を流しながら夜へと消えて行った、零れ落ちた涙は宝石に変わりキラキラと光る粒が夜道に虚しく転がっていた。

『そうか僕は夜から出れるのか』
不思議と嬉しくはなかった。魔女もこんな思いなのだろうか。

 

 

 

それから暫くして僕はまた魔女に出会う。
『お前まだ夜から抜け出してないのかい』
『そう、ここから出たくない、ううん、出られないんだ。まず昼の扉は重たくて開けられない。それに外の世界は人っていう怖い怪物がいるんだろ?』
『なぁに言ってんだい、お前も人だろうに』
魔女は笑って続けた
『私は元々陽の光を浴びて生活していた人間さ。昼の人間だ。昼の世界はいい事ばかりではないけれど人の暖かさに触れられるんだ。夜の中は淀みが広がっていてお前はこのままだと未来永劫続く夜の闇に呑まれちまう。その前に夜から抜け出すんだ。』
『どうして夜の中にきたの?』
『愛してる人が死んだのさ、それだけだよ。私にはもう何も無いんだ、私は弱いから立ち直れなかった、現実から目を背け続けたんだ、そうして自分で自分の心を殺したのさ、そうしたら夜の扉は開いていたんだ。だから私はこっちに来たそれだけだよ。そうして何年も何百年も経って人ならざる者になったのさ。私はここから抜け出せないんだ。陽の光すら見れない。お前はまだ間に合う昼の中に飛び込め。昼は太陽はお前は歓迎する。その代わりお前は花で死ぬんだ。』
『死ぬのはいいんだ、別に怖くない。僕は気付いた時からもう夜の中にいた。僕が誰なのか僕も知らない。夜の中は心地いい、昼には人っていう怪物がいるんだ。月が教えてくれた。それが僕と同じなのか?』
『お前は馬鹿だねぇ、私達がその人っていう怪物なんだよ。私は元だけど。いいかい、お前は人なんだ夜の中、夜の闇に全てを奪われる前にさっさと夜から脱けろ』
魔女はそう言うとまた何処かへと消えてしまいました。僕には魔女の言ってることがよく分からなくて混乱してしまいました。

 

 

 

昨日昼への扉が開いたんだそれはとても重い扉で僕1人では開けられたものじゃないんだ。でもその扉が僕1人の力で開いた。扉を開けると初めて見る光の眩しさに目が見えなくなるかもしれないと思った。扉の向こうに手を伸ばすと、誰かが僕の手を引っ張るんだ。僕は怖くてその手を振り払った、誰の手かもわからないその手を僕は振り払った。扉が勢いよく閉まる。体に感じる違和感、ほとばしる、触れた手の部分から花が生えてくる。それは夜の中でもわかるぐらいにとても綺麗な白い色をした花だった。名前はなんて言うのか、僕にはわからないけれどそれがとても美しい花だという事を僕は理解した。キラキラとした、まるでそう、お星様のように輝いている花。

 

 

『花が咲いたねぇ綺麗な花だ』
魔女がいた
『恐れる事はないさ、お前はこれから沢山の人から愛をもらうんだ』
魔女の言う事はいつもよくわからない

 

 

次の日もその次の日も僕は昼の扉を開けようとしたんだ、でもこいつが中々開いてくれない。花があるせいなのかわからないけれどもこの花に全身を蝕まれたいという不思議な気持ちになったのを僕は理解した。
そうして暫くしてから昼の扉はまた開いたのだ。眩しい、眩しさの中で僕は不思議な気持ちになる、この暖かさはなんなのだろうと、もっとこの暖かさを味わいたいと光に向かって手を伸ばす、そうするとやはりこの間のように誰かが僕の手を引っ張る。けれど不思議と恐怖心はなく僕はそのまま、その手を受け入れた。体が光に呑み込まれて行く。全身から花が生えていく、ああ、これが魔女が言っていた呪いなんだなと僕は死ぬのかと、そう思いながらもこの暖かい光に包まれて昼に行けるのなら死ぬのはやっぱり嫌だなぁと。初めてそう、願い思った。体が全部扉の外に出てしまいそうだ、ああ、夜から抜けられたのか。怖いなぁ。そもそも人が怖いなぁ、僕も人らしいんだけど、どうなんだろうなぁ。
僕の体全身からはキラキラ光る宝石のような花が咲いていた。そうして花は僕の心臓をつき刺す。

 

 

 

最後に見た光景は優しそうな顔をした人が僕を見ている、そんな光景だった。あぁ、人ってあんなに優しい顔するんだなぁ。怪物なんかじゃないのか。

 

 

 

『おめでとうございます、元気な男の子ですよ』

赤と緑

 

 

 

12月雪が降り出す頃に私達は羽化する
雪がしんしんと降り積もるこの街に幸せを運びにきた。この街の冬は長く寒い、何かの魔法にかかったように夜は長く昼は短い、太陽の光が届く事も少なく曇りの日々が多い。そんな中で日々を送るこの街の人達。

 

気温は摂氏マイナス4度、街行く人々は白い息を吐いていた、私達は寒さを感じないけれど人は寒さを感じるらしい、それを聞いた時最初は不便な生き物だと思ったよ。まぁ、そんなのはいいんだ、私達かい?私達は普遍的な存在、だけれどきっと人にとってあたたかくて優しい存在になりたくて、そうして生まれてきた、このシーズンは大忙しなんだ。

 

ほら、さぁ、目を覚ました私達、街角を見てご覧、真っ赤なマフラーをしている女の子はお母さんにプレゼントをおねだりしている、あそこにいる男の子はショーウィンドウに釘付けだ、何を見ているんだろうね?きっとあのおもちゃが欲しいんだ。街中、幸せで素敵な雰囲気さ。私達も調子に乗ってケーキなんて盗み食いをしてはいけないよ。ほら、まずはパパッと最初の仕事だ、神様にお願いをして当日の天候を晴れ時々雪に変えてくるんだ、間違っても吹雪なんかにしちゃ駄目だからね、さぁ、この手紙を持って行っておいで。
そっちの…私は初めての仕事だろう。よし、あそこで泣いてる子供達にプレゼントを用意してあげて欲しい、これは大役だよ、頑張るんだ。子供達の笑顔が私達の何よりの喜びであり幸せだからね。毎年この為に生まれて私達は雪に還るんだから。うん、大丈夫さ、さぁ、やってみよう。
そこの私ー!せめて当日ぐらいは何も不幸が起こらないように空を見張っていてくれないかい、君はベテランだから任せられるよ、何かあったらこれ、神様に届けてきていいからね、はい、手紙。12月ぐらいは私達の我が儘だって聞いてくれるよ、そこまで神様だって性格悪くないはずだ。
私かい?私はちょっときちんとしないといけない事があるから暫くは出払ってるからね、この街は任せたよ。

『どうかどうか世界中が笑顔で満ち溢れますように』

雪の結晶達がせわしなく舞いながら願う
クリスマスが今年もやってくるよ

加筆します

 

 

ゆっくり、ゆっくり
あなたの声を聞かせて
唇が動く度にわからなくなる

少しずつ、少しずつ
あなたを教えて欲しい
このまま消えてしまいそうで

待って、待って
あなたの姿を見せて
いつかの白昼夢のように

短い歌の後は息を吸って
あなたの心臓になりたい
絞め付ける程に約束した小指は
あの日赤い糸と一緒に捨ててしまった

蜃気楼のように
ぼーっと佇むあなたが見える
声を掛けてもあなたは返事をしないまま

12/10

 

 

揺れて踊って
眠って口付けて
あなたの心臓に近付きたい
金木犀の香りを纏いながら
誘うように手を差しのべるの
あなたの心臓に近付きたい
あと少しなのに遠く、遠く
海のようになだらかでおののく
あなたの心臓に近付きたい
近いはずなのに遠く、遠く
髪に触れる手が微かに震える
あなたの心臓には近付けない

樹海の中

 

 

想いを閉じ込めて樹海の中
うねりの中、悲哀を感じる
人魚は樹海を泳ぐ
永遠に続く悲しみの中
光があまり届かないここは
深海に似ていると人魚は笑った
その笑顔は何処か悲しくここには
王子はいないと言うのに何を探すのか
永遠にも似た樹々の群れの中
今日も人魚は樹海の中で静かに笑う

10/31

 

 

小指の約束

 

書く手が石に変わる
動かないまま何年と経った
文字や言葉が私の周りからいなくなった
の、ではなく、私が感じられなくなった
文字や言葉が話し掛けてくる感覚は久しく
石へと変化を遂げたこの手も動き始めるだろう
言葉を音に、声に、伝え、話し、意味を与える
小指の約束は守れる自信がなく石のままぽろりとそこらに落ちた、畳は汚れる、痛みは感じない。ペンを持つ手が温かく感じ鈍く動き始める、血液は循環し生きている言葉を指先に運ぶ。開けた窓から吹き込む風は冷たく、冬がやってきたのだという事を感じた、雪が降り積もるように私達の心にも長く積もる思いがある。いずれは雪のように溶けて消えて行くのでしょうか。ぽろりと落ちた小指はいまだに石のままで形だけが指のままだ、大切な何かが小指には詰まっていたような気もする。でも、それが何かは思い出せず苦悶する、だから小指の約束を守れる自信がなかったのだ、いつ、どんな約束をしていたのか。もう思い出せない。私は石の小指を今さっき動き出したばかりの温かい手で掴み窓の外へ放ってやった。ボトっと音がしたような気がする。今日は雪のようだよ。